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昔ながらの手作業で田植えを体験する子どもたち=2024年5月22日、北海道美唄市

 「小学校の農業科って知ってるか」

 まだ雪深い2月、退職した先輩記者に言われた。小学校らしくない「農業科」の名前が気になり、取材してみることにした。

 2007年、福島県喜多方市で始まった小学校の「農業科」は農業を通じて様々なことを学ぶ試みだ。昨年度、美唄市が道内で初めて採用した。

 様々な何を学ぶのだろう。美唄市を取材すると、「農業を」学ぶのではなく、「農業で」学ぶとのコンセプトの下、模索が続いていた。

 実は、道内初の農業科は全国2例目でもある。農作物や生産過程への理解が深まる、と高く評価される一方で、追随する自治体はなかった。手間と時間がかかるのが理由のようだった。

 「農業科」の可能性をいかに伝えたらよいのか。悩む私の背中を押してくれた言葉がある。

 「農業科は、あなたが生き物であることを知ることができる授業です」

 授業で農業を取り上げることの大切さを訴え、喜多方市の取り組みも支えてきたJT生命誌研究館の中村桂子名誉館長が教えてくれた。

 「赤ちゃんは急には大きくなれない」。「生き物は自分の時間を持っている」。作物を育て、収穫することで「生き物の時間」を学ぶ。言葉の意味が心にストンと落ちた。

 タイパ、コスパと効率性ばかりがもてはやされる時代。「ゆとり教育」は学力低下を理由に方針転換された。ゆとりを無くしていたのは、子どもではなく大人の方ではなかったか。

 農業科を通じて、子どもたちが何を学び、成長していくのか。生き物の時間で見ていきたい。(長谷川潤)

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